『インビジブル・ターゲット』
陳木勝(ベニー・チャン)監督インタビュー 



成龍(ジャッキー・チェン)映画の監督として、香港アクション映画の巨匠として名高い陳木勝(ベニー・チャン)監督が謝霆鋒(ニコラス・ツェー)、余文樂(ショーン・ユー)、房祖名(ジェイシー・チャン)という主演の三大若手スターと超一流スタッフを揃えて製作した香港ポリスアクションの超大作『インビジブル・ターゲット』(原題『男兒本色』)。昨年東京で開催された“香港映画祭”のオープニング作として、主演の3人を迎え華々しく上映された際には、香港映画の真髄ここにありという、度肝を抜くアクションと息もつかせぬストーリー展開で大きな話題をさらった。(※本誌Vol.20に記事あり)
今回、日本での本公開を控えてベニー・チャン監督が来日、F2Aのインタビューに応じてくれた。進化し続ける香港映画の魅力を存分に体感できる本作の見所を伺った。

最高のアクション&ストーリー

― この映画の魅力を一言で言うと?
香港アクション映画が一番盛んだった90年代のテイストを再現しました。『プロジェクトBB』(原題『寶貝計劃』2006年・香港)の後、ジャッキー・チェンに「もっと沢山のアクションを織り込んだ映画を撮りたい」と言われて企画しました。3人の主演俳優は香港アクション映画の後継者になれる新世代スターです。ですから香港アクション映画を好きな方は勿論、多くの皆さんに楽しんで頂ける作品だと思います。
― 派手なアクションが目を引く作品でしたが、監督がアクションを撮る時のポイントは何でしょうか?
私は幼い頃からアクション映画を観て育ち、TV局で15年間TVドラマを作ってきた物の大部分はアクション物でした。そんな中で常に感じていたのは「アクション物ではストーリーが大切にされていない」という事です。 90年代はTVや映画、更には海外でもアクション物の人気が高く、多くの作品が作られましたが、最近はアクション物があまり振るいません。その最大の原因はストーリーがないからです。映画ファンは必ずストーリーを重視します。役柄一人一人のバックストーリーに興味を持っているんです。ですから、私のアクション作品ではストーリーにポイントを置いています。登場人物の背中に物語があるのです。
ですから悪役も重要です。互いに影響を及ぼしあうものですから、悪役が描かれていなければ主人公達もキチンと応じる事が出来ません。主役であれ悪役であれ、それぞれのバックストーリーを丁寧に作り、中身の濃いしっかりとした作品が出来たと思います。80~90年代のアクション映画の欠点が補われ、ドラマとしても見所のある作品になっています。
― この映画の英語タイトル『インビジブル・ターゲット』と中国語タイトル『男兒本色』に含まれる意味を
教えて頂けますか?

中国語の『男兒本色』は一人の男として彼自身が抱える問題に正面から向き合う人間的な力量という意味として考えました。たとえばニコラスは映画が始まった途端、悪者に恋人を殺されてしまいます。その為に彼は長い間現実の生活に向き合う勇気が持てません。ショーンはとても能力のある青年が、一人の人間としては自分本来の性格をコントロール出来ずにいます。ジェイシーは毎日兄を想い、兄の影の元に生きています。人生は勇気をもって自らの将来に向き合ってこそ、気概ある生活を送れると思うのです。本作品ではもちろん沢山のアクションシーンがありますが、後には3人ともがそれぞれ勇気を奮って歩むことになります。ですから、『男兒本色』というのは「男であれ、何であれ人間というのは勇気を持って自分の困難に向き合うべきだ」という意味です。英語の題名は会社側が神秘的なイメージを持ったものにしようという事でつけました。『Invisible Target』はとても強い敵役をイメージさせるという事で、英語と中国語の題名で2つの意味を表しています。

どんな些細なアクションでも危険が伴う

― なるほど。英語名と中国語名で本作の見所が紹介されている訳ですね。では、監督が一番工夫されたシーンはどこですか?
呉京(ウージン)とショーンが初めて街中で戦う夜のアクションシーンです。このシーンの前に派手な爆破や、ニコラスがバスにぶつかりながら賊を追いかけるシーン等がありますが、これらは厳密には中国語でスタント(特技)と言われるもので、アクション(動作)ではありません。初めてのアクションシーンはと言われれば、香港にやって来たウージンとショーンが殴りあうシーンなのです。ウージンの威力を表現する為に、蹴り一つについても迫力あるスピード感があるものに仕上げたくて苦労し、2日の予定を5日間かけて毎晩撮影しました。結果的にかなり良いものに仕上がったと思います。観客が映画のアクションの良し悪しの判断を下すのは、基本的には拳一つだと思いますから。
― 監督さんによってはアクションシーンを全てアクション監督に任せてしまうそうですが、ベニー監督は如何でしょうか?
アクション映画の撮影には絶対に経験が必要です。監督の中にはアクション部分の撮影が好きではなく、現場はアクション指導に任せてしまう人もいますが、私は絶対に現場を離れません。アクションシーンの撮影で一番大切な事は安全です。長年アクションの現場に携わってきましたが、スタッフも俳優もアクションを簡単に考えがちだと思っています。でも実際にはどんな些細なアクションでも危険が伴うのです。今回はクランクインの日にニコラスとウージンのワイヤーアクションの撮影をしました。特にどうという事のないシーンに思えたのですが、ウージンが太ももを怪我してしまいました。非常に残念な事に、一番格闘シーンが得意なウージンが初日に怪我をしてしまい、その後の撮影は怪我を押して続ける事になりました。私は「アクションを軽く考えちゃいけない」と口癖のように言っているのですが、若者はエネルギーに溢れているせいか、それくらい簡単だと考えがちなのです。怪我をすれば、撮影全体が遅れて大きな影響がでます。ですから私は絶対に現場を離れる事はしませんね。
― なるほど。それにしてもこの作品の爆破シーンの迫力は恐ろしいほどでした。使った爆薬は凄い量ですよね?これ以上迫力を出すのは無理だろうと感じたくらいでしたが、次回作が困りませんか?
今回、技術的にもアイデアも持てるものは全て使い果たしました。次が困るだろうなんて、考えもしませんね。最高のものを作る為にスタッフの知恵と力を集めて使いきったので、次回はまたゼロからです。

それぞれ違った魅力を持った3人

― 主演の3人について、どのようにご覧になりましたか?
まずニコラスは本当に立ち回りの演技=武功が好きなんです。家でも毎日練習し、以前、テレビドラマで武功が必要だった時には色々な師匠について、剣・弓・刀・槍など何でも学び、家でも練習していました。お陰で彼の家は無茶苦茶になっていましたよ(笑)。夜遅くに棒術の練習を見に来て欲しいと電話がかかってきた事もあります。それくらい彼は武功が好きで熱心にやっているので、これからのアクション映画を支えてくれると思います。香港でも中国でも東南アジアでもアクション作品は好まれていますが、ただ若いエネルギーが溢れたアクションではなく、本当に武術が出来る人が必要なのです。彼は今、非常に熱心に拳術を学んでいます。自分が何をしたいのかをよく分かっていて、方向性がはっきりしていますね。今後、アクション映画の大スターになると思いますよ。
ショーンは小生(※一般的には京劇の役でアクション担当を表す“武生”に対してインテリの若い男性役を指す言葉)なんです。(とても残念そうに)彼がこの作品以降、何本ものラブストーリーに出演している事でも分かるように、ニコラスとはまた別の方向性を持っています。女性は彼をカッコイイと見ますからね。彼の方向性は昔の劉徳華(アンディ・ラウ)に近いものがあります。彼自身もアクションがそんなに好きではないんです。歩き姿ひとつで観客を魅了して人気が出る…、彼はそんな魅力がある俳優ですね。
ジェイシーは歌が好きで、家でも毎日ギターを抱えて歌っています。彼の父親(※ジャッキー・チェン)とは似ていません。彼もジェイシーに自分と同じ道を歩いて欲しくないと思っています。全身傷だらけで天気がちょっと変わるだけで足腰が痛む自分のようにはなって欲しくないんです。だからジャッキーはジェイシーにアクション俳優になるように無理強いする事もありません。私がジェイシーに出演依頼の電話をした時も、「アクションは多くないから」と頼んだのです。本作ではアクションの中心はニコラスで、ジェイシーは穏やかな役ですからね。とは言え3人ともアクションがありましたが、それには同意してくれていました。アクションがあると身体中痛むし、疲れるから大変なんです。3人ともとてもエネルギッシュで、香港アクション映画の頼もしい後継者だと思います。
― 香港映画の今後をどうお考えになっていますか?
最初にも言いましたが、この映画は『プロジェクトBB』を見た多くの人から「アクションがもっと見たい」と言われて撮った作品です。今のジャッキーはアクションよりも演技に興味がありますから、それで僕が企画したのがこの作品です。アクション映画の撮影は苦労が多いですし、多くの経験を積まなければ撮れるものではありません。俳優は勿論、アクション監督も照明さんも音声さんも…現場のスタッフ全てに経験が必要なんです。香港映画は長い歴史の中で先輩方がその経験を蓄積し、広い市場を作ってくれたお陰で今があります。私も先輩から多くを学んできましたし、それを次の世代に伝えなくてはならないと思っています。今回の撮影に関わってくれた全てのスタッフがアクション映画を撮る苦労を分かってくれたと思います。それが多くの先輩方へ敬意を表す事になればと願っています。
― 最後に一つお伺いしたいのですが、本作の中でジェイシーの兄として郭富城(アーロン・クォック)の写真が出てきますが、あれにはどのような意図があるのでしょうか?以前の『ディバージェンス~運命の交差点』(原題『三岔口』2005年・香港)でのアーロンとつながりがあったりしますか?
(大笑いして)そのようにとって頂いてもいいですね。実は…、本作の前にまだ話があって、最初はどっちの話を撮ろうかと考えていたんですよ。
― ではそのまだ撮っていない残りのお話もいつか観る事が出来ますか?
続きものというか関連のある映画も撮りたいと計画しています。いつかご覧頂ける事を願っていますよ。

撮影現場では大変厳しい事で有名な監督と聞いていたのだが、素顔はとても優しい笑顔が素敵なジェントルマン。
映画監督としてのデビュー作が『アンディ・ラウの逃避行』(『天若有情』1990年・香港)とキャリアも長く、これまでに数多くの香港映画スター達を見てきた監督ならではといった3人の主演俳優への評価は今後の香港映画界を占う指標になりそうだ。

三大スターの競演と全精力をかけた怒涛のアクションだけでなく、インタビューにもあったようにストーリー性が高いところもこの作品の大きな特徴と言えよう。更に、長年の香港映画ファンにとっては絶妙な配役となった脇を固める俳優陣など、あちこちに散りばめられた隠しスパイスを味わうのも楽しい。

前のページに戻る

TOPに戻る