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昨年9月先行公開された香港・台湾では歴代の興行記録を塗り替え、地元の台湾金馬賞でのグランプリ獲得のみならず、ヴェネツィア国際映画祭でも最高の賞である金獅子賞を獲得した話題作『ラスト、コーション』(原題:『色・戒』)。
「“ラスト(Lust)”は仏教用語の“欲情”を、“コーション(Caution)”は“戒め”を意味する」と、監督の李安(アン・リー)は言う。
1940年代激動の中国を舞台に、実在した女スパイを描いた作品だが、その大胆なセックスシーンから“愛の問題作”として話題を呼んでいる。
2月2日の全国一斉公開に先立ち、昨年12月4日、都内のホテルにて、リー監督と湯唯(タン・ウェイ)、王力宏(ワン・リーホン)が来日記者会見を行った。
まず入場して来たのはリー監督。にこやかな表情を浮かべ、一見“癒し系”の風貌だが、くるくると良く動く大きな眼が頭の回転の速さを感じさせる。次にタン・ウェイが大きく背中の開いた真っ赤なドレスで登場すると、妖艶なその姿にカメラマン達がシャッターを切る音が会場に一段と大きく響いた。リーホンはやや緊張した面持ちで入場。ミュージシャンとして活躍する彼だが、ダークスーツに身を包んでいるせいもあってか、
“正統派美男俳優”といった雰囲気を醸していた。しかし、セッションが進む中で、監督の話に聞き入りつつも、時折、手元のミネラルウォーターのボトルをいじったり、隣のタン・ウェイのグラスにも水を注いで話し掛けたりと、少年っぽい一面も見せていた。
以下、会見の一部をお届けしよう!
リー監督:本日はご来場下さり有難うございます。『ブロークバック・マウンテン』(05年・米)という作品で来日して以来、2年ぶりに皆様とお会いする事になります。その時、私は英語を使っていましたが、今回は作品が中国語なので、中国語でお話したいと思います。
『ブローク〜』と、この『ラスト、コーション』は、ある意味で姉妹作となっています。どちらも“禁断の愛”を探求しているからです。この後、セッションの中で詳しくご説明します。皆さんにこの作品を気に入っていただけると幸いです。
タン・ウェイ:皆さんとお会い出来て嬉しいです。日本に来るのはこれで2回目ですが、気候も景色も素晴らしく、とても気に入っています。この作品を日本の皆さんにも気に入って貰えると嬉しいです。
リーホン:(日本語で)「ミナサン、コンニチハ!」。今日は英語でお話させていただきます。この映画はとても特別です。来日してこの記者会見の場に居られる事、作品の紹介が出来る事を光栄に思っています。また、この後行われるセッションも楽しみです。

― 監督、作品、撮影についてコメントを。
リー監督:この作品に纏わる面白い事と言えば…そうですね、面白い事とは常に苦痛が伴うと思います。
この映画のテーマは、タイトル通り“色”と“戒め”の探求です。“色”の意味は、“色情”(色恋)だけでなく、人生の“色相”(様相)とするとより分かり易いと思います。撮影はとても大変でした。撮影期間が5ヶ月間、つまり118日間と長かっただけでなく、毎日長時間に亘りました。
仲代達矢主演の日本映画『地獄変』(1969年)を思い出しました。地獄絵巻を描いている様な…と言うか、地獄で修行をしている様な気分になりました。しかし、勇敢で優秀なスタッフと一緒の修練な訳ですから、「地獄に落ちたままではいけない、彼らを連れてまた“人の世”に戻って来なければ!」とずっと思っていました。
撮影の半分以上は上海で行われました。3ヶ月です。残りは香港で行い、マレーシアにも1週間滞在しました。
マレーシアへ行ったのは、いまの香港には昔の面影がないからです。多くの人が撮影に参加してくれました。
ラストシーンを撮影した上海映画撮影所のセットには、1千5百万米ドルを費やしました。これは中国語の映画にしては巨額の投資です。我々中国人は日本人と違って、古い物をあまり大切にしない部分があるので、美術担当のスタッフや若い俳優が、昔の事を再現する為に参考にする資料が少ないのが気がかりでしたが、優秀なスタッフと俳優に恵まれ、私自身、沢山の収穫がありました。正に“教学相長”、つまり“人に教える事は、人から学ぶ事である”という有意義な経験をしました。
―(タン・ウェイ、リーホンへ。)時代を掴む為に工夫した事は?

タン・ウェイ:役者として(撮影前に)3ヶ月もの訓練を受ける事が出来た事は、とても幸運でした。監督から山ほどの資料を頂き、先生を付けて貰えたり…。例えば、演技や麻雀、歌の授業、他にも当時の社会背景や風習を学びました。
また、役者同士もバスケットボールをして遊ぶなどで、交流を深めました。リーホンがピアノを弾き、私が歌う、なんて事もありましたね。絶えず皆で意見を交換し、励まし合っていました。こうして徐々に役に入っていく事が出来ました。もちろん、監督は色々とアドバイスを下さいましたし、多く議論を重ねました。梁朝偉(トニー・レオン)とも勉強会を持ちました。撮影が終了するまでの5ヶ月の間、常にこうして勉強をしていました。

リーホン:監督は凄い人で、“夢を描く”という事に非常に長けています。だから、周囲も一緒になって、その夢をとてもリアルに感じ取る事が出来てしまうんです。3ヶ月間の訓練は、タン・ウェイが言った通りですが、僕にとってはまるでタイムマシーンに乗っている様な期間でした。
まず、僕は沢山の事を勉強しなければなりませんでした。アメリカで育った関係で、30年代の中国について知らなかったので、歴史を学ぶ必要がありました。それと同時に、役になりきる為に言葉(中国語)の面でも勉強しなければなりませんでした。リー監督には、訛りを矯正してくれと言われていたので、当時の発音やアクセントを練習しました。
観客にとっても、俳優にとっても、監督の描くリアルな夢を一緒に見る事が出来るのは喜びだと思います。もちろん、僕も非常に大きな喜びを感じて監督についていきました。役作りはゼロからのスタートでしたが、監督が大いにサポートしてくれましたし、僕自身もそれに応えられる様に頑張りました。こうした貴重な機会を持てた事に感謝しています。
― 彼ら二人の演技について、コメントを。
リー監督:記者会見ですから、真面目な話をしなければならないのでしょうが、面白い話をしたいんです…いいですか?(笑)。タン・ウェイにとってはこれが処女作となります。オーディションで1万人の中から私が彼女を選びました。私は古風なタイプの女性が好みでして(笑)、今の中国大陸の好みとは大分違っていたようです。ですから、選考を担当した助監督に「皆がダメって言う人と私は会いたい!」と注文をしました。ある意味、彼女は万人受けするタイプではなかったと言えるでしょう(笑)。
オーディション当日、部屋に入って来たタン・ウェイを見て驚きました。前日は眠れなかったらしく、目の下にクマが出来ていて…(笑)。我々はオーディションの詳細について、事前に明かしておらず、ただ「大物監督の面接を受ける」と言うことだけ知らしていたので、誰もが私を見るなり、「あっ!」と驚いた様子でした。彼女自身も、風邪をひいてやつれて悲惨な状況で(笑)、もうダメだと本人は思っていた様です。でも、それが却って自然で良かったせいか、私は彼女を見た瞬間、「彼女こそ、この映画に相応しい!彼女はイケる!」と直感的に思いました。追い求めていた中国の古典美を探し当てる事が出来て、まるで夢の様でした。彼女の持っている気質や立ち振る舞いは、私の両親の時代っぽくて(笑)、中学時代の国語の先生にも似ています。この古風な所が(他のスタッフに)受けなかったんでしょうね。中国も台湾も香港も以前とはすっかり変わってしまいましたが、この作品は古き良き時代を追い求めた映画です。それは親や故郷を思う気持ちと似ています。タン・ウェイを見た時、とても懐かしく感じたのです。唯一の心配は、ベッド・シーンをどう指導していったら良いのか、と言う事でした。
「タン・ウェイ=ワン・チアチー(※タン・ウェイの役名)」だと確信しましたが、脚本が出来上がるにつれて、また、彼女と一緒に仕事をしていく中で、さらに「タン・ウェイ=ワン・チアチー=原作者である張愛玲(アイリーン・チャン)」だと思い至りました。これはきっと天国のアイリーンの導きなのだろうと、深い縁を感じました。これまで私は役者にこんなに時間を掛けた事はありませんでした。役者は映画作を重ねる中で磨かれていくものですが、タン・ウェイは短時間で成長しました。役柄も、天真爛漫な女性が成熟していく過程を経ていますが、彼女自身も成長し、私も一緒に成長する事が出来ました。二人で戦った!という実感があります。撮影現場で私のインスピレーションが湧かないと、彼女までが体調不良になる事さえありました。二人は見えない絆で結ばれていた気がします。
リーホンを選んだ最大の理由は、私の若い頃に似ているからです(笑)。
アメリカでは、映画のカッコ良い主演男優は、監督の分身だと言われますからね(笑)。
彼はアメリカ育ちですが、中国的な気質や教養は私に似ています。彼を見ていると自分の学生時代を思い出します。私も演劇をやっていて、愛国青年を演じた事がありました。リーホンにはそのヒーローのイメージ、小さい頃良く観た映画のヒーローのイメージがあると思います。正直に言って、彼の役にはあまり大きな期待をしていませんでした。原作にはない役でしたし、彼自身の持ち味を出してくれればそれで良いと思っていました。しかし、一緒に仕事を始めてみると、彼はとても努力家で、真面目に演技に取り組んでくれるという事が分かりました。なので、イメージを膨らませて、一から役を作り直す事にしたのです。
彼が演じたクァン・ユイミンは、最初は純真ですが、それが徐々に失われていきます。その分かれ目が殺人のシーンでした。この撮影の時、3テイク目に至っては、相手の首を絞める演技が真に迫っていて、本当に殺してしまうのではないかと怖くなる程でした。私はリーホンを映画の世界に連れ込み、訓練しましたが、彼自身が役に入り込む事で作品の純真さが際立ちました。殺人のシーンを撮った瞬間は、役と共に彼自身も成長を遂げた瞬間だと感じました。
彼は若者のアイドルでもありますが、アイドル時代との別れを告げようとしている様にも見えたのです。こうした彼の成長過程を一緒に味わえた事は、私の人生においてとても貴重な体験でした。本作でのリーホンの演技は素晴らしく、大変誇りに思っています。
トニーを含めた3人と仕事が出来た事は、本当にラッキーでした。3人は、私そのものであり、内面的な分身でもあります。リーホンは私の純真さを、タン・ウェイは心を表現してくれました。トニーについては…何言ったら良いのか…言い難いですが…男の脆さというものを見事に演じてくれました。

この他にも興味深い裏話満載の会見であった。リー監督がハリウッド進出後もなお中国語映画に拘る理由や3人とトニーとの撮影秘話等…。続きは、本誌vol.20に掲載予定!
芸術モノ、文芸モノとか、歴史・戦争を描いた大作映画を観に行く時は、
いつも「お尻が痛くなる」ことを覚悟して行くのですが(失礼!)、本作の3時間に及ぶ上映時間は少しも長く感じられず、スリリングなストーリー展開にぐいぐい引き込まれた。
現地での公開時から話題となっているベッドシーンはやはり本作の見所の一つだろう。中国本土では濃厚なシーンは全てカットされていた為に、大陸からがこぞって香港に鑑賞客が訪れたという報道が中華圏ではあった。この大多数の人は「下心」から観たかっただけなのでしょうが(笑)、やはり本作の中でベッドシーンはとても重要なシーンの一つ。実際、中国本土でのみ観た中国人の友人に言わせると、…彼女好みの作品であるにも関わらず…映画の意味が分からなかった、とのこと。つまり、ベッドシーンなしでは、この映画を観た意味がない!というくらい大事なシーンなのです。
アン・リー監督は記者会見の中で、このシーンに関して「何が真実で何が虚構なのかを表現した“究極の実演」”と語ってくれました。名優トニー・レオンと期待のリー監督が1万人のオーディションの中から発掘した新人女優タン・ウェイによる“究極の実演”は絶対に見逃せません!
また、“女性”性をこれほど強く考えさせられた作品は今までありませんでした。個人的にはワン・リーホンを応援している私、…もちろん、本作でのリーホンの演技は良かったのですが…、やはり自分の「女」としての視点から感情移入して観てしまい、鑑賞後もタン・ウェイが演じるワン・チアチーのことが頭から離れませんでした。そういう意味でも、ぜひ、多くの女性の読者さんに観て頂きたい作品です。
F2A担当(M)

(C)2007 HAISHANG FILMS WISEPOLICY
◆あらすじ
1942年、日本占領下の上海。抗日運動に身を投じる美しきスパイ、ワン(タン・ウェイ)は、
敵対する特務機関のリーダー、イー(トニー・レオン)に近づき暗殺の機会を伺っていた。
しかし危険な逢引を重ねるうちにいつしかワンは、虚無の匂いを漂わせるイーに魅かれていく。
ある日、二人は死と隣り合わせの日常から逃れるように、暴力的なまでに激しく求め合う。
そして、二人のスリリングで危険に満ちた禁断の愛は、時代の大きなうねりの中で運命的なラストへとなだれ込んでいく…。
STAFF・CAST
監督:アン・リー
出演:トニー・レオン、タン・ウェイ、ワン・リーホン、ジョアン・チェン
原作:アイリーン・チャン(集英社文庫刊『ラスト、コーション』)
上映時間:158分、R-18
配給:ワイズポリシー
公式HP:http://www.wisepolicy.com/lust_caution/
2008年2月2日より、Bunkamuraル・シネマ、シャンテシネ他、全国一斉ロードショー
(2008.2.14) |